引越に振る舞われるそば
「引越そば」は、江戸時代中期から江戸を中心として行われるようになった習わし。家主、向こう三軒両隣に、新しく引っ越してきた挨拶としてそばを配るようになった。
小豆粥を重箱に入れて配ったり、あるいは小豆をそのまま配ったり、煎り豆を用いたりもしていたようだ。しかしながら、そばの一杯の値段は明和(1764-72)で12文、寛政3年(1791)で14文だったぐらいだから、相店(*)ぐらいで小豆粥では丁寧すぎるという文献も残っており、そばにすれば安直だったからだ、という庶民の本音が見えてくる。大阪には、その慣習はなかったようだ。
「おそばに末長く」とか「細く長くお付き合いをよろしく」といったのは、江戸っ子の洒落で、そばが一番手軽で安上がりだったことが本当の理由だろう。江戸中期には、それだけそばが江戸市民の生活に浸透していたという証でもあるといえる。
|